
上野恩賜公園の南西に広がる、広大な水面「不忍池」。夏になれば一面を翠緑の蓮の葉が覆い尽くし、極楽浄土を思わせる景色が広がります。しかし、この池の魅力は単なる季節の風物詩にとどまりません。なぜ、上野の山の麓にこれほど大きな池が存在するのか。そこには、はるか昔の地形の記憶と、江戸という都市をデザインした人々の壮大なビジョンが隠されています。
不忍池の概要と歴史
不忍池は、周囲約2キロメートル、面積は約11万平方メートルにも及ぶ天然の池です。その歴史は古く、平安時代の書物には既に「不忍池」という名が登場します。
不忍池の最大の見どころといえば「蓮(はす)」です。毎年7月8月は池の水面がビッシリと覆われるくらいに大きな濃い緑の蓮の葉とピンクの花が咲きます。
江戸時代に入ると、徳川将軍家のブレーンであった天海僧正が、上野の山を京都の比叡山(延暦寺)に見立てて寛永寺を建立しました。その際、不忍池は「琵琶湖」に見立てられ、池に浮かぶ中之島(現在の弁天島)は、琵琶湖の竹生島になぞらえて築かれたものです。当初、弁天島へは船でしか渡れませんでしたが、江戸時代後期に橋が架けられ、庶民の憩いの場として爆発的な人気を集めるようになりました。江戸の名所図会にも、蓮の花を楽しむ人々の姿が生き生きと描かれています。
不忍池の全体図(鳥瞰図)
3D衛星画像(クリックで拡大)
バーチャル空撮
不忍池の江戸時代地図
古地図に描かれた不忍池の姿。かつて江戸の人々が愛した水辺の風景は、時代を超えて現代へと受け継がれています。歴史のロマンを感じさせる一枚です。不忍池の地形
不忍池の面白さは、その「地形の生い立ち」にあります。実はこの場所、縄文時代には東京湾の入り江の一部でした。海岸線が後退するにつれて海から切り離され、上野台地(武蔵野台地の東端)と本郷台地に挟まれた谷間の低地に、湧水や谷戸を流れる小川(かつての藍染川など)が流れ込んでできた「潟湖(ラグーン)」の名残なのです。
池の周囲を歩きながら上野の山を見上げると、台地の崖線がはっきりと確認できます。かつて波が打ち寄せていたであろう海食崖の痕跡を想像しながら歩を進めると、見慣れた景色が全く違う次元の物語として立ち上がってくるはずです。水面に揺れる蓮の葉の隙間から、何千年もの時間をかけて形成された「東京の骨格」を感じ取ってみてください。
大地の間で残された池。不忍池の見どころ


視界を覆うほどの巨大な蓮の葉群。都会の中心とは思えないダイナミックなスケール感と、大自然のパワーに圧倒されます。

遊歩道から見上げる弁天堂の特徴的な緑の屋根。水面に揺れる蓮と歴史的建造物が織りなす風景は、まさに上野・不忍池のハイライトです。

背景の弁天堂を背に、ぽつんと、しかしたくましく咲く一輪のピンクの蓮。その可憐で力強い姿は訪れる者の目を奪います。

大きな青葉の中から顔を覗かせる、ふっくらとした蓮の花。生命の息吹と、自然界の造形美を間近に感じられる一枚です。

きな青葉の中から顔を覗かせる、ふっくらとした蓮の花。生命の息吹と、自然界の造形美を間近に感じられる一枚です

厳かな弁天堂と、遠くにそびえる近代的なビル群。東京ならではのコントラストが、都市における自然の尊さを物語っています。

蓮の葉の真ん中にこぼれ落ちた大きな水滴。光を反射して輝くその姿は、水明かりの美しさと静寂を象徴しています

水を弾く蓮の葉の不思議な性質が作り出した水玉の宝石。小さな自然のドラマに、ふと足を止めて見入ってしまいます。これをロータス効果というそうです。

水滴の奥に広がる緻密な葉脈。自然の精密なデザインと、清涼感あふれる水の輝きが心を見事に癒やしてくれます。

固く結ばれたピンク色の蕾。これから見事な花を咲かせるための、みずみずしいエネルギーと期待感に満ち溢れています。

弁天堂へと続く道すがら、優雅に咲く蓮の花たち。かつての人がこの地に極楽浄土を見たのも頷ける、神秘的で美しい光景です

花が散った後に顔を出す特徴的な花托。生命のサイクルを感じさせるそのユニークな形状は、季節の移ろいを感じさせてくれます。

夏のダイナミックな雲と、地平線まで続くかのような蓮の葉。都会の真ん中にある、圧倒的な開放感を味わえるスポットです。

大きな葉のベッドで休んでいるかのように咲く花。優しい光が織りなす陰影が、より一層の美しさと儚さを引き出しています。

ビル群と夏雲を背景に、生命力を爆発させる不忍池の蓮。自然と都市がシームレスに同居する、東京・上野ならではの景観で

生い茂る木々と蓮が水際で重なり合う風景。都会の喧騒から隔絶されたような、穏やかで静寂な時間が流れています。

吸い込まれそうなほど鮮やかなグリーンの葉と、その上で揺れる水滴。マクロの世界でしか見られない完璧な調和美です。

表面張力によってころんと丸まった水滴。その小さな水の世界に、周囲の自然の光がすべて閉じ込められているようです。

下町風俗資料館。展示された、色鮮やかな草履の数々。江戸・明治から続く職人の息づかいや、人々の細やかな美意識が感じられます。

往時の賑わいが目に浮かぶような、堂々たる黒塗りの人力車。東京下町の歴史と文化を肌で感じることができる貴重な展示です。

畳の匂いが漂ってきそうな、茶の間と台所のジオラマ。古き良き日本の木造建築と、そこに暮らした人々の温もりが伝わってきます。

所狭しと並べられたお面や色鮮やかなおもちゃ。誰もが一度は夢中になったあの頃のワクワク感が、そのまま閉じ込められたような空間です。

下町風俗資料館2階からの不忍池と蓮。高台から見下ろす不忍池は、まるで一面に敷き詰められた緑の絨毯。爽やかな風と圧倒的な生命力を全身で感じられます

蓮の葉に沿って続く遊歩道。散策する人々の姿も自然の一部に溶け込み、日常の喧騒を忘れさせてくれ

手前の赤い植栽と、奥へと広がる緑の海。太陽の光をたっぷりと浴びた蓮たちが、力強い夏の訪れを歓びとともに伝えてくれます。

照りつける太陽から差し込む光のシャワー。光と影が交錯し、水辺の自然が一層ドラマチックに輝く、美しい一瞬を捉えました。

池の上に架かる風情ある小さな石橋。橋下を泳ぐ鯉や、水面に映る光の揺らめきが、訪れる人の心に涼を届けてくれます。

広大な池を舞台に、堂々と鎮座する弁天堂。風にそよぐ大量の蓮の葉が、一つの大きな生き物のように波打ちます。

画面を埋め尽くすほどの緑の中で、ところどころに咲く蓮のピンク。その豊かな色彩は、見る人に活力をチャージしてくれます。

水辺に沿って作られた散策路。涼しい木陰と池から吹く風を感じながらの散歩は、最高のリフレッシュタイムになるでしょう。

泥の中から太い茎を伸ばし、美しい花を咲かせる蓮。

その清らかな姿は、古くから多くの人々の心を魅了し続けてきました。

上野不忍池弁天堂・手水舎の龍の吐水口

手水舎の花飾り。

ちょっとした気遣いが嬉しい。
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抜けるような日本の青空と、弁天堂。開放感たっぷりのこの景色は、晴れた日の上野に欠かせ


琵琶の碑は、福徳・諸芸能上達の神として広く信仰されている弁財天の琵琶を模してつくられた石碑

夏の日差しの中、揺らめく空気の向こうに見えるお堂。
お堂に参詣するためには船を使用していましたが、参詣者が増えたことから橋がかけられました。

不忍池のどこからでも参拝できるように、八角形の建物になったと言われています。

7月から8月にかけては、蓮と一緒に極楽浄土を連想させる光景が広がります。


ふわりと開いた薄紅色の花びらのグラデーション。思わず顔を近づけて、その甘い香りを確かめたくなるほどの美しさです。

蓮で埋まっていない方の池。

高層マンションの借景と、手前に広がる原野のような景色。自然と人間生活が共生する、東京の豊かな一面です。

遠くにスカイツリー。

開放感たっぷりのこの景色は、晴れた日の上野に欠かせないシンボルです。

抜けるような日本の青空と、弁天堂の緑の屋根。

不忍池の周辺情報
歩いて数分の旧岩崎邸庭園もいかがでしょうか。
旧岩崎邸庭園の記事もぜひご参照ください。
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旧岩崎邸庭園
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不忍池へのアクセス
JR上野駅の「不忍口」から歩を進めるのが、地形のアップダウンを感じるには最適です。駅から中央通りを渡り、台地の裾野をなぞるように歩いて約5分。ビル群の隙間から、突如として開けた水面と蓮の海が現れます。京成上野駅方面から、少し下り坂になっている地形を足裏で確かめながらアプローチするのも、かつての「水辺へと下る道」を体感できておすすめです。
<所在地>
東京都台東区上野公園5-20
<交 通>
JR「上野駅」不忍口or西郷口or山下口 徒歩5分
東京メトロ「上野」駅 7番出口 徒歩5分
都営地下鉄都「上野御徒町」駅 A3出口 徒歩5分
京成本線「京成上野」駅 池の端口 徒歩1分
<入園料> 無料
<駐車場> あり(有料)

